連載コラム

薬学部ホームページを制作するにあたって、薬学に関係する皆さまに向けた連載コラムをお届けすることにいたしました。今後、本学教員が定期的に連載をしてまいります。

頑張ろう!ニッポン

薬学部教授
羽野 芳生

春の陽気さえ感じられたあの日の午後に、それは突然にやってきた。「東日本大震災」と名付けられた未曽有の災害である。その瞬間、またそこから始まる非日常的な感覚と光景は、5年経った今でも不思議なくらいにはっきりと覚えている。もちろん、はっきりとした光景や思いが自分の脳に刻み込まれているのは、この時の出来事に限ったことではない。喜怒哀楽が絡んだ出来事は何かしら記憶に残っているし、何かの拍子にそれらが鮮明に蘇ったりもする。

とりわけ、物事を進めていく過程では、過去の知見が、すなわち脳に織り込まれた記憶が大きな助けになることもしばしば経験する。自分が取り組んだ研究テーマで、1年あまり試行錯誤を繰り返すもまったく成果を出すことができなかったことがある。ところが、半ばむしゃくしゃして分子模型を遊ぶようにクルクル回していたとき、分子の回転軸と前から気にかけていた未解決データとの関連性がにわかに浮かんだのである。

偶然性も重なったとはいえ、試行錯誤の中で得られた知見も相まって導かれたことは間違いない。ひるがえって、自然科学の歴史は試行錯誤の連続そのものである。幾多の研究者が連綿と試行錯誤を繰り返し、ときに誤ったものが記録されたりもするが、そののちの試行錯誤によって正しいものに書き換えられる。教科書に書かれている知識は、その繰り返しの中で取捨選択された歴史の産物ともいえる。
その意味では教科書に書かれた事柄を単に覚えるのではなく、それがどのような過程を経て得られたものであるかを見てみるのも、本当の理解のためには必要なことではないだろうか。科学者が物事の成り立ちを探求するうえで、先人たちの考え方ほど参考になるものはないのである。

このコラムを書いているさなかに、大きな地震が熊本を襲った。報道画面の中には再び悲惨な光景が流れている。関東から遠い地にあって、実感はない。それでも、かの震災の経験から、非日常的な光景がまざまざとよみがえってくる。「熊本地震」と名付けられた今回の震災も脳に刻み込まれる。東北にせよ、九州にせよ、早い復興を願うばかりである。

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