研究者紹介
プロフィール
東京農工大学大学院連合農学研究科修了(農学博士)後、理化学研究所基幹研究所細胞生化学研究室にて「タンパク質分解酵素の酵素学的性状と酵素反応機構の解明」研究に従事。2010年より現職。
一言でいえば、タンパク質を分解する酵素です(そのままですが・・・)。体の中で、お肉を栄養(アミノ酸)に分解したり、ホルモンの生成・分解を介して血圧や血糖を調節していたりするのもタンパク質分解酵素です。他にも色々な役割を担っています。
私たちの体は、常に細菌やウイルス、細胞の癌化などにより危険にさらされています。こういった外敵や異物を排除するシステムが免疫系です。体の中ではT細胞やB細胞、マクロファージなどといった免疫担当細胞と呼ばれる防衛部隊が活動し、体の健康を保ってくれています。
最近私たちは、マクロファージと呼ばれる免疫担当細胞が、細菌感染時などに特定のタンパク質分解酵素を分泌することを見つけました。そして、このタンパク質分解酵素が周辺のマクロファージの抗菌・抗ウイルス作用を増強することを明らかにしつつあります。
図:タンパク質分解酵素ERAP1によるマクロファージ活性化
マクロファージは細菌やウイルスを感知し、それに伴い小胞体の中に局在するタンパク質分解酵素(ERAP1)を細胞の外へと分泌する。分泌されたERAP1はマクロファージの抗菌・抗ウイルス(貪食や殺菌物質(一酸化窒素)産生)活性の亢進に寄与する。
酵素は体の中の遺伝子を設計図にして作られます。私たちの研究対象であるタンパク質分解酵素も例外ではありません。実はQ3で示したタンパク質分解酵素をコードする遺伝子の特定の変異が細菌感染症や炎症性疾患、高血圧症の罹患を促進する可能性が示されています。これらの病態では、変異によってタンパク質分解酵素の分泌や、マクロファージを活性化させる能力が変化している可能性があります。それを明らかにすることができれば、有効な治療法確立に貢献できるのではないかと期待しています。
私にとって研究とは、誰も知らない生命の神秘を明らかにするという知的探究心を満たしてくれるものであると同時に科学の進展に寄与できるとてもやりがいのある仕事です(私の力は微々たるものですが・・・)。初めて自分の名前の入った論文を発表した時は、感無量でした(学術雑誌に成果を報告すると、半永久的に自分の成果と名前が保持されます)。
薬学部は薬剤師になるだけの学部ではなく、医学部や歯学部などと並んで生命科学の基礎研究の場として重要な機関です。そして、このような基礎研究が日本の医療技術の一端を下支えしています。当大学でも各教員が様々な興味深い研究を行っています。生命の不思議に触れたいと思う人・基礎研究という視点から医療に触れたいと感じる人も是非「薬学」を選択の一つとして考えてください。
おわりに・・・
後藤先生、ありがとうございました。先生のご研究は生命の根本原理を解明するテーマでありながら、病気の発症機構の解明や新薬の開発につながることがわかりました。これからの先生のご研究の成果を楽しみにしています。