研究者紹介

プロフィール

山本佳久

研究テーマ:調剤現場で発生する問題点の科学的検証

山本 佳久

所属ユニット … 物理薬剤学ユニット

教授 博士(薬学)  薬剤師

1995年 東邦大学大学院薬学研究科博士前期課程終了後、4年間製薬会社で薬理研究に従事する。東邦大学薬学部で助手を2年務めた後、2001年から調剤薬局に薬剤師として勤務し、日々調剤・服薬指導業務に従事する傍ら、調剤現場で発生する問題点を科学的に解明する研究に取り組む。
2011年より本学着任。前述の研究テーマに取り組みながら、学校薬剤師などの活動も行っている。趣味はJリーグ観戦。

主な業績

  • Studies on uniformity of the active ingredients in acetaminophen suppositories re-solidified after melting under high temperature conditions, Chem. Pharm. Bull., 63: 263-272 (2015)
  • Magnetic resonance imaging of the phase separation in mixed preparations of moisturizing cream and steroid ointment after centrifugation, Chem. Pharm. Bull., 63: 377-383 (2015)
  • Comparative pharmaceutical evaluation of brand and generic clobetasone butyrate ointments, Int. J. Pharm., 463: 62-67 (2014)
  • ステロイド軟膏製剤のレオロジー特性に対する評価~後発品および保湿剤との混合製剤における展延性~  薬局薬学, 4: 54-61 (2012)
  • Evaluation of the degree of mixing of combinations of dry syrup,powder and fine granule products in consideration of particle size distribution using Near Infrared Spectrometry, Chem. Pharm. Bull., 60: 624-631 (2012)
  • Pharmaceutical evaluation of steroidal ointments by ATR-IR chemical imaging: Distribution of active and inactive pharmaceutical ingredients, Int. J. Pharm., 426: 54-60 (2012)

帝京平成大学研究最前線 薬学部広報部会メンバーが本学研究者にインタビューを行いました。

Q1:先生の研究テーマについて、わかりやすく教えてください。

私は調剤薬局に約10年勤務していました。現在の研究テーマはその時の経験がヒントになっていると言ってもよいと思います。薬剤には、錠剤、水剤、軟膏剤、坐剤など様々な剤形があります。大半の薬剤は薬効を示す成分(主成分といいます)の他に、「薬の安定性を高める」、「主成分の放出を調節する」などの目的で様々な物質が添加されています。このように緻密に作られている薬剤を粉砕したり、他の薬剤と混合したり、あるいは規定外の方法で保管したりすると、個々の薬剤の特性が損なわれてしまう可能性があります。私たちの研究室ではそのような調剤現場で発生する問題点を、薬剤適正使用の観点から科学的に検証し、得られた情報を調剤現場へ提供することを目標に研究を行っています。

図1:坐剤中に分布する主成分の模式図

②の坐剤を分割した場合、下側にはほぼ1本分の主成分が含まれることになる。

その一例として解熱鎮痛剤として小児に用いられるアセトアミノフェン坐剤の主成分均一性に関する研究を紹介します。この坐剤は患者の体重に合わせて「1回1/2本」や「1回2/3本」のように分割して使用することのある薬剤です。このアセトアミノフェン坐剤は体温付近で溶けるハードファットと呼ばれる基剤を使用していますので、保存するときには、溶けないように冷蔵で保管します。しかし、これは患者に薬を渡した後でよくあることなのですが、夏場にうっかり室温に放置してしまったり、自家用車内に置きっ放しにしたりすることによって溶けてしまい、再び冷えて固まったときに主成分の均一性が損なわれます。その様な坐剤を分割して使用すると、例えば1回1/2本になるように坐剤を分割したとしても、一方にはほぼ1本分の主成分が局在し、もう一方には主成分がほとんどないという状況もあり得るわけです(図1)。前者を使用した場合は小さいお子さんに解熱剤を倍量与えてしまうことになりますし、後者の場合にはほとんど薬効を示さないことになります。

図2:代表的なアセトアミノフェン坐剤の各切断面における偏光顕微鏡画像

通常の製剤では各切断面に矢印で示すようなアセトアミノフェンの結晶が見られる。加熱融解後の坐剤は上部の切断面S3にその結晶が認められない。

実際に7種類のアセトアミノフェン坐剤について調べてみると、加熱しない状態ではいずれも主成分が均一に分布していました。ところがこれらのうち4種類の製剤では40 ℃(真夏の室温放置を想定しています)で加熱融解すると、主成分が下方へ偏りました(図2)。一方、ある製剤は50 ℃の条件下(自家用車に置き忘れた場合を想定しています)でも主成分の均一な分布を維持していることが分かりました。

これらの結果は加熱融解による主成分分布への影響が製剤によって異なることを示しています。現在この要因について基剤融解時の粘性や主成分結晶の粒度、主成分放出性およびモデル製剤による検討など様々な角度から製剤学的に検討しているところです。なお、ここで紹介した坐剤に関する研究以外にも軟膏とクリーム剤の混合物の安定性に関する研究やこれらの主成分や添加物の分布に関する研究など皮膚外用剤を対象にした研究も精力的に実施しています。

Q2:どのようなきっかけで、今の研究テーマに取り組むようになったのでしょうか。

私は調剤薬局に勤める前に製薬メーカーの研究所におりましたので情報発信のノウハウはある程度持っていたと思います。調剤薬局に勤務してしばらく経つと、色々と気になることが見つかってきました。元来自分でやってみないと気が済まない性分なものですから、まずは簡単なことから検証を始めました。そのうち病院薬剤師や薬局薬剤師が集まる学会の存在を知り、得られた検証結果をその学会で発表してみようと考えたのがきっかけだと思います。薬局単独で研究を遂行するには限界がありますので、私のメーカー勤務時代の人脈をたどって大学との共同研究に結びつけることができました。

Q3:研究の魅力について、教えてください。

研究のテーマになりそうな問題を見つけた時は、過去に同じような検討をされているのかどうかなどを詳細に調べます。あるテーマに関して10年以上も前に同じようなことを考えていた人がいるとわかったこともあり、その時は少し感慨深いものを感じました。逆に思いついたテーマが、まだ誰も取り組んでいないことであった場合は宝物を見つけたような気持ちになります。そしてそのテーマを攻略するための計画を立てて実行し、データを積み重ねていくわけです。その結果が期待通りであることもあれば、その逆もあります。どのような結果が出るのかは、実験してみなければわからないことが研究の難しいところであり魅力であると私は考えています。その得られた結果に合理的な解釈を加えて一定の結論が得られ、学術論文として採用されたときには、一つのテーマを成し遂げたことに対する達成感が得られるとともにさらなる研究へのモチベーションに繋がります。

Q4:先生の研究は、薬剤師の仕事にどのように関係しているのでしょうか。

私が調剤薬局に勤務していた頃に思っていたことですが、科学的根拠がないために処方せんの指示通りに調剤してよいのか迷ってしまったり、医師や患者からの相談に的確に答えられなかったりといった場面に遭遇することは意外に多いのです。薬を混合した後の安定性とか患者が薬を規定外の方法で保管していた場合の変質などがその例です。従って私の研究テーマはそのまま薬剤師の仕事に直結していると言えます。現場の薬剤師の先生方が調剤方法や服薬指導方法などを検討するための製剤学的根拠に基づく情報を提供し続けていくことが私の目標です。

Q5:薬学部を目指す受験生にメッセージをお願いします。

薬剤師としての勤務経験から薬剤師に必要と思われる資質を二点伝えたいと思います。まず一点目ですが、どのようなことでもいいので、日々の業務の中で何か問題点が見つかった時にそのまま放置しない姿勢が大切だと思います。このような姿勢を身につけておくと、仕事に対するモチベーションが格段に上がりますし、研究マインドも身につくのではないかと思います。それと二点目、薬剤師はとにかく間違えることが許されない職種ですので、自身のメンタルをコントロールする能力も必要です。要は気持ちの切り替えですね。実はこれが簡単な様で非常に難しいのです。ここに挙げた二点の習得は学生のうちからでも十分可能です。受験生の皆さんには自分が未来の薬剤師であることを意識したメリハリのある日常生活を送ってほしいと思います。

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