薬学部ホームページを制作するにあたって、薬学に関係する皆さまに向けた連載コラムをお届けすることにいたしました。今後、本学教員が定期的に連載をしてまいります。
2016年12月掲載
身近なものに興味をもって
私は、学生時「微生物薬品化学教室」に所属しており、大学院修了後は大腸菌や腸球菌などを実験材料として研究を行ってきました。2012年に帝京平成大学に着任し、現在は1年生の「微生物学」という科目を担当しています。やや専門的な内容の科目なので、どの程度の予備知識をもっているか確認したいと思い、最初の講義の際に、興味のある微生物(と思われるもの)を1つ挙げて、それについて知っていることを書いてもらうことにしています。
「微生物」とは、目に見えない小さな生き物のことで、細菌・ウイルス・真菌(酵母・カビなど)・原虫が含まれます。初めてこのアンケートをとった際、定番と思われた大腸菌やインフルエンザウイルスなどを上回って多くの学生が挙げてくれたのが、「ミドリムシ」。藻類の一種であるEuglena 、和名「ミドリムシ」については、生物の教科書にのっているイメージしかなかったのですが、最近では栄養補助食品や次世代燃料を生産する材料として注目されていたのです。想定外の回答によって私自身が世間の流行に気づかされることもある一方で、何も思いつかなかったのか、配布されたばかりのテキストをめくって書き写して提出する学生もいます。菌類やウイルスの名前を全く聞いたことがないはずはなく、関心がないだけなのでしょうが、これは非常にもったいないことだと思います。
ちょっと注意してみると、ニュースやテレビ番組、インターネットなどから得られる情報の中に、微生物に関連する話題は結構あります。薬学部の講義で取り上げるのは病気の原因になるもの、薬(抗生物質)を産生するものなどが中心になってしまいますが、醤油・味噌・チーズなどの発酵食品は微生物のはたらきによってつくられていますし、ビフィズス菌などはヒトの腸内環境を整えるのに役立っている善玉菌として知られています。よくいわれる食品の保存上の注意などは、微生物の基本的な性質を知るとその意味が理解できるはずです。
薬学部の学生にとって薬剤師国家試験合格は大きな目標であり、それを目指して専門科目の勉強に励みます。難しそうな教科書を見ただけで拒否反応を起こしてしまうことがあるかもしれません。けれども講義で習う内容は、病気や薬以外にも普段の生活の中で身近にあるもの、現象などと密接に関わっていることが多々あります。身のまわりにある話題と関連づけられると、苦手だと感じていた科目も違った色合いに見えてくるのではないでしょうか。身近にあるものに興味をもって、勉強を楽しめるきっかけをつかんでほしいと思います。