連載コラム

薬学部ホームページを制作するにあたって、薬学に関係する皆さまに向けた連載コラムをお届けすることにいたしました。今後、本学教員が定期的に連載をしてまいります。

2023年3月掲載

何をしているのですか?

伊東育己講師

薬学部講師
伊東 育己

1. レンガ職人のはなし

レンガを積む職人たちを見かけた旅人が、そのうちの3人に「何をしているのですか?」と尋ねたところ、それぞれこんな答えが返ってきました。

Aさん「見ればわかるだろう、レンガを積まなきゃいけないんだ。」

Bさん「大きな壁を造っているのさ。重労働だけど、これで家族を養える。」

Cさん「立派な大聖堂を建てているんです。素晴らしいでしょう?」

主に仕事に対するモチベーションを説く場面で紹介されるこの話、ご存知の方もいらっしゃると思います。この話は読み手が感じ取れば十分だということを重々承知したうえで、勝手に3人の背景を仮定してみます。

Aさんは、ご家族が代々職人で親や周囲の勧めで職人になった。

Bさんは、勉強が苦手で体力で稼げる仕事を探し職人になった。

Cさんは、世の中の役に立ちたいと考え職人になった。

あくまで仮定の背景ですが、Cさんが誇りを持ってレンガを積んでいる理由や、Bさんが家族を養うために稼ぎたいことがわかります。一方Aさんは、やらされていると感じていることが想像できます。ここでさらに、レンガを積む作業に加え、レンガを造る作業が増えたとしたら…。レンガを造るのは、積むよりも、もっと時間も手間もかかる地道な作業です。Bさんは追加で賃金がもらえるなら受け入れるでしょうか。AさんやCさんならどうするでしょう。

2. 薬学を学ぶのはなんのため?

先日、家族の進学説明会がありました。そこで繰り返されていた「〇〇が苦手だから理系もしくは文系にするというのはダメだよ。大学や学部は、自分がどんな職業に就きたいかで選びなさい。」という話、おっしゃる通りだと思います。薬剤師になりたいなら薬学部です。でもレンガ職人の話から教わるならば「その職業に就いて何をしたいか」、もっと言うなら「どんな人になりたいか」なのかもしれません。大学選びでそこまで考えないよと言われそうですが、勉強もまた然りだと思うのです。

薬学部には“実務実習”という、5年生の約半年間、薬局や病院に通いながら現場で学ぶ実習があります。もちろんいきなりではありません。それまでも医療機関を見学したり、様々な職種の先生方の講義を聴講したり、低学年から医薬品や治療に関連する学修を重ねます。また調剤(内服薬や外用薬、注射薬などを調製する)技術や、服薬指導(患者さんへの薬に関する説明)等のコミュニケーションを模擬的に練習し実務実習に臨みます。このような準備をしていても、患者さんや薬剤師、周りのすべてが本物という環境から受ける刺激は大きいものです。自分が調剤した薬が患者さんに投与され、患者さんや他職種とも会話します。大学で習ったことの大切さを痛感しながら、たくさん失敗もして、本物から多くの学びが得られる実習は、将来のビジョンを描くのにうってつけの場だと思います。ただし、この実習ができるのは5年生です。それまでの4年間をどう過ごすのか、まさにレンガを造る作業だと感じてしまうかもしれません。

3. 何をしているのと聞かれたら?

今、あなたが参考書を広げて勉強しているとして、誰かに「何をしているの?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか。目の前の課題に精一杯で、「とりあえず覚えればいい」、「導き出せなくても答えだけわかればいい」を繰り返すうち、なんでこれを覚えなきゃいけないの…と、その知識を使う場面を想像できないまま勉強に追われてしまうことのないように、もしも薬学部を目指すなら、薬学部で学んだ先を想像してみてください。身近に詳しい方がいらっしゃるなら話を聞き、本や漫画、ドラマを参考にするのもいいと思います。

薬学教育は今、“薬剤師として求められる基本的な資質・能力”を、大学卒業時までに養成していく目標から、生涯にわたり研鑽していく目標とするため動きだしています。薬学部卒業、国家試験合格は通過点に過ぎないのです。

4. さいごに

Aさんのように初めは自分で進路を選択していなかったとしても、目的を持っていればBさんやCさんと同じです。Bさんのように消去法だったとしても、職人になるという手段は家族を養うという目的に向かっています。そしてCさんの目的が、もし“大聖堂を建てる”だったとしたら…。

意識は行動に現れます。職人たちは言葉だけでなく、その仕事ぶりも違ったはずです。

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