連載コラム

薬学部ホームページを制作するにあたって、薬学に関係する皆さまに向けた連載コラムをお届けすることにいたしました。今後、本学教員が定期的に連載をしてまいります。

2023年1月掲載

地域医療を支える薬剤師を目指して

小原道子教授

薬学部教授
小原 道子

全科対応できる医療職

最近では、薬学部に入学する学生さんの中でも「地域の方に役立つようなことをしたい」とお話される方が増えてきました。実際、日本に6万件以上ある薬局は、日常の中で、地域住民の健康な暮らしを支えています。そして誰もが気軽に立ち寄ることができる、地域に一番身近な医療従事者のいる場所です。その中で薬剤師は、健康な時から介護が必要になるまで、全科の病気に対応していくことが可能です。薬の相談や残薬の確認、適正使用などと同時に、患者さんの暮らしを支える製品を沢山知っています。さらには、少し食欲が落ちてきた、最近躓くことが増えてきた、傷に使いやすい衛生材料が欲しいなど薬局で取り扱っている製品を通じて、様々な患者さんの対応が可能です。

訪問薬剤師って?

ところで、このコラムを読んでいる皆さんは「訪問薬剤師」をご存じでしょうか。訪問薬剤師は患者さんのご自宅で、薬の服薬支援や介護の相談、また体調の変化の情報共有を行うなどの業務を担っています。今でこそ訪問薬剤師は、これからの地域医療を担う支え手として大きな期待を背負っていますが、私が訪問薬剤師としてデビューした当時は殆ど行っている人がいませんでした。医薬分業も、まだまだこれからという時代だったように思います。訪問薬剤師業務がスタートして4半世紀が経ちましたが、今後の地域医療を支える一員として、コミュニケーション力が高く、患者さんの暮らしを支える視点で提案ができる薬剤師がさらに求められていくと思っています。

これからは地域で患者さんを支える時代へ

最近では病気になったときの対応も大きく変化しています。以前は長期入院で治療を行っていた方が、今は手術や処置が終了すると、すぐに自分の住み慣れた地域へと帰ってきます。病状に応じて自宅で訪問リハビリや訪問看護、訪問薬剤師などのサポートを受けます。同時に、介護保険の申請や地域包括支援センターとの連携など、医療だけでなく介護、福祉そして地域を支える資源がシームレスに対応していくことが理想です。他職種との連携を紡ぎながら、支援が必要な方の暮らしを支えていくこと、これも薬剤師の大きな役割になります。そのためには出来るだけ日頃から地域特性を知り、顔の見える関係を作っていくことが望ましいと感じています。

厚生労働省が提示した「患者のための薬局ビジョン」では、いわゆる病気を持つ方だけでなく、予防にも注力するように提案されています。これが健康サポート機能であり、国民の病気の予防や健康サポートに貢献できるように作られました。具体的には、一般用医薬品等に関する相談や、健康の維持・増進に関する相談、地域住民に向けた健康イベントの開催など病気になる前からサポートをすることで、健康寿命の延伸(自立した生活を送ることができる期間)を図っていくことが求められています。

医療過疎地域での薬剤師の役割

地域で役に立つ、ということは大々的に何かを行うということばかりではありません。日常的な小さなことの積み重ねが大事だと思っています。その一つの例として、最寄り駅から車で1時間弱、山を3つ超えた先にある小さな集落の産直所で「健康相談会」を5年前から開催しています。参加者は15人くらいでしょうか。野菜を朝早く納品に来た地元の方で、ほとんどが高齢者です。月に一回定期的に薬学生と一緒に足を運んでいます。堅苦しい話ではなく、最近の畑の様子や昔話を聞きながら、2割くらい健康についての話を聞いています。参加者の中には、緊急入院をしたり、手術が必要になったりする方もいます。病院で説明は聞いてきますが、自分で不安を抱えていることも沢山あります。そんな時には検査データやお薬手帳などを持参して相談いただくこともあります。集まってワイワイ話すときの笑顔は本当に楽しそうで、これからも継続していきたいと思っています。

人は誰もが年を重ねていくと健康に不安を生じてきます。フレイル(虚弱)状態のように、病院にかかるほどではないかもしれないが、少し体力が落ちてきた、と感じるときなどの相談が出来るファーストアクセスの場としても薬局・薬剤師は力を発揮できると感じています。帝京平成大学がある大都市圏で沢山の医療機関に囲まれている地域と同時に、離島や山間地域などの医療過疎地にも、大学で学んだ沢山の知識を生かすことのできる新たな取り組みの場があると感じています。

さいごに

薬剤師は薬を通じて健康支援が出来る事は勿論ですが、一歩進んだ視点で「薬を必要とした背景」を知ることで、より患者さんに寄り添う提案や暮らしの支援ができると思っています。そのためにも、地域の方に役立つことが出来る様な視点を持ち、思いやりのある心を込めた医療提供を行う薬剤師の育成を目指していきたいと思っています。そして沢山の希望を胸に、薬剤師として社会に羽ばたいてほしいと願っています。

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