薬学部ホームページを制作するにあたって、薬学に関係する皆さまに向けた連載コラムをお届けすることにいたしました。今後、本学教員が定期的に連載をしてまいります。
2015年2月掲載
薬剤師を志す人へ伝えたいこと
私はこの大学に所属する前の約10年間、小児科医院の門前薬局に勤務していた。薬局は自宅から自転車で僅か5分という場所にあり、夜中や休日に緊急で調剤にあたることもあった。また、24時間体制で薬の電話相談なども受けていた。当時の私の息子や娘はまだ小学生だったために彼らの同級生が患者として多数来局し、当然そのご家族の方とも服薬カウンター越しに話をする機会が増えた。どうやら私が休日に近所のスーパーのフードコートで生ビールを飲んでいたところや眠気まなこで愛犬と散歩していたところなどを多くの患者さん関係者に度々目撃されていたらしい。どこに患者さんの目があるかわからないので勤務時間外でも油断できない(笑)。また息子や娘の運動会の応援に小学校へ出向くと、普段来局される患者さん一家があちらこちらに見られ、向こうから声をかけていただくこともあった。このようにまるでプライベートがないかのような状況をあまり好ましく思わない方もいるかもしれないが、当時の私の中には処方元の医師とともにこの地域の子供達の薬物治療を支えているという使命感や誇らしさのようなものがあり、それが私の仕事に対するモチベーションに繋がっていた。同時にもし調剤過誤を引き起こし、子供達に健康被害を負わせてしまったらこの街にはいられなくなるかもしれない、そう考えると非常に身の引き締まる思いがしたものであった。
さて、このようにして日々の業務をこなす中、私が強く感じるようになったことは、薬剤師という仕事が病院勤務、薬局勤務に関わらず、その専門性を生かして地域医療に貢献できる素晴らしい職種であるということと、その一方で少しの気の弛みが患者さんの命にかかわる重大な事態に直結してしまう職種であることの二点に集約される。これらを念頭に置きながら、日々の業務に流されるだけに終わらず、常に適度な緊張感を保ち、自分を磨くための努力を怠らないことが、薬剤師として成長するための必須条件であるという考えに至り、そのように実践してきたつもりである。綺麗ごとと思われるかもしれないが、実際に多くの薬剤師は患者さんに少しでも正確な情報を伝えようと日々自己研鑽に励んでいるのである。
現在私は大学教員として教育・研究に携わっているが、職種は変わっても薬剤師時代に抱いていた思いは変わらない。これからは未来の薬剤師にこの思いを伝えていくことが私の仕事になる。